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   〜Make a way〜
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 戦争は、エゴとエゴのぶつかり合い。
その果てには、罪なき命の崩壊と終末だけ。

『誰もが幸せになれる道などない。』

 あんなに元気だった人が、逝ってしまう寸前に自分に言った言葉。
墓前で花束を添えた時。愛情のかけらもなかった筈なのに、涙が零れた。

 兄ではなく、何故自分が選ばれたのかは未だ判らない。
”この人”にとっては、敵国とも言える地に、救いを求めて亡命した自分に。

「グランタック・・・、何故”この人”は、私を選んだのだと思う・・・?」
「メディオン様・・・」

 もう2度と、足を踏み入れる事はないと思っていた祖国。
亡命と銘打って、1度は捨てようとしてしまっていた母国。
今、自分はその国を統括する立場になる。

「”誰もが幸せになれる道など、ない”」
「・・・?」
「生前の、”この人”の最後の言葉だ。」

 正しいと思う。誰か1人が幸せを得る為には、必ずその裏で誰かの涙が
あるのだから。あの時も、そうだった。あの戦いの中でも・・・。

「ドミネート様らしいお言葉ですな。」

 ”この人”は、幸せだったのだろうか。
実の兄たちとも剣を交え、手に入れた地位を生きてきて。
権威を使い、全てのものを屈服させ、”この人”が望んだのは何だったのだろう。
そして、それを・・・手に入れる事は出来たのだろうか。

「メディオン様・・・?」

 零れ出る涙を、止める術を知らなかった。
何度来ても、この墓前に花が絶える事はなくて。こんな人でも今でも慕ってくれる人がいるのかと思うと、不思議と嬉しくなったのは、やはり、血が繋がっているからなのだろうか。



 ――探して・・・いたのですか?

 心の中で、呟いてみる。

 ――貴方は、探していたのですか?

 墓前の花束が、ふわりと風に揺れた。

 ――『誰もが幸せになれる道』を・・・。



「創ればいい。」
「メディオン様?」
「ないのなら、創ればいい。」

 道がそこにないのなら、探しても見つからないのなら。

「私がこの手で、創ってみせる。」

 誰もが、ソコに生きる全ての人が、笑顔でいられる国を。
その為には、どんなにこの身が削られようとも構わない。

 それはさながら、1番の親友である彼の人の、父君のような。

「メディオン様、貴方になら、創れましょう。」
「・・・ありがとう、グランタック・・・。」

 見上げた瞳に、墓前に一滴、木々からの水滴が零れ落ちた。
それがまるで、”この人”の・・・、父の涙の様に思えたのは・・・
気のせいじゃなかったのかも知れない。

 明日はいよいよ着任式。
新たなる道を、この手で・・・。







<覚え書き>
LOVE&PEACEのあゆみ様作(サイトは閉鎖された模様)

王子、どこまででもお供します(帰れ)
実を言いますと、ジュメシン3人の中で1番優柔不断だと思っているのは王子だったわけなんですが、不思議にもこれから王となる王子についていきたくなるような頼もしさを感じました。 それもこれもあゆみさんの書かれた文章の魅力であると確信しています。それから、何といってもドミネート。一連の争いの第2の元凶とも言えるお人で、その悪役ぶりはあっぱれでしたが、どうしても嫌いにはなりきれない所もありまして、それが本編からも垣間見ることができるドミネートなりの脆さ。レインブラッドを刺客として送り込んだこともドミネート特有の脆さだと思うんですがそれはさておいて、『誰もが幸せになれる道などない。』というこの台詞もその脆さではないかと思った次第であります。物凄く的を射た言葉だと。
あゆみさん、素敵な独白をありがとうございました!
"2003年08月16日編集