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   聖誕祭ニ想フ
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12月25日。

エルベセム神が生まれたとされる聖なる日。
この日は帝国でも共和国でも盛大な祭りが催される。人々が信仰する、唯一無二の神なのだから当然の行為だろう。

私の住むここフラガルドでも、首都アスピアのそれには及ばないにしろ、人々の活気は普段の数十倍に膨れ上がっている。

そして今。
いよいよ聖誕祭もクライマックスを迎えようとしている。







伝説の遠征から1年。
戦争が終わった年にも祭りは執り行われたけど、規模をうんと縮小した形だけのものだった。
今年行われているものは次元が違う。多分、戦争が始まる前のものよりもすごいんじゃないかと思う。
戦争は大小問わず、様々な傷跡を残していったけど、それでも人々は必死に立ち直ろうとして頑張り続け、聖誕祭が開催できるまで復興を遂げた。

今年の祭りのテーマは「平和と共生」。
争いの後の祭りにかける人々の情熱は凄まじさを感じるくらいで。立てた企画に誰一人として妥協せず、どのイベントも大成功を収めた。

勿論、フラガルドでの祭りの総指揮にあたった私も、ここ2、3日はほぼ不眠不休で働き続けかなり身体にガタがきているのだけど、祭りの雰囲気に後押しされて気力だけは全く衰えてなかった。







『思い入れの強い祭りほど、終わる間際に強い感傷を伴う』

――父上の言葉を思い出した。
祭りの終わりは、誰もが名残惜しむものだってことはわかっていたことだし、自分でも祭りが終わるたびに思うことだ。
これまでずっと、領主の息子として、みんなに楽しんでもらおうと仕掛ける側ではあったけれど、所詮父上の下で、父上の指示で動いていたわけであって、つまりは重圧感なんて全くなかった。

今年はまるで違った。
みんなが楽しめるように1から構想・企画を立てて細部までの指示、予算のやりくり、調達・・・
激務。
普段の政務と平行しての作業は、まさにその言葉の通りだった。
父上はこの仕事を何年もこなした。やりがいに比例してきつい作業。
辛かったに違いない。
でも。
父上は準備に取り掛かっている間、ずっと笑っていた。嫌な表情は一度たりとも見せたことがなかった。

何度もめげそうになって、表情に出そうになったけど、父上や、そばで支えてくれるみんなの顔を思い出して楽しみながら準備作業をこなした。
そう思いながらやっていると、本当に楽しくなってきて、どんどん気力がわいてきて、祭りにものすごく愛着が湧いた。

普段の2日間と祭りの2日間。
時間は平等に流れているはずなのに、やけに今のほうが時間の流れを早く感じて。

このまま、時が止まればいいのに。
終わってしまうなんて哀しすぎる。

あの日のあなたに近づいてみて初めてわかった気がした。
感傷の質も量も、これまでとはまるで比べ物にならない。ともすれば幼子のように泣き出してしまいたくなるような衝動に駆られた。







始まりがあれば、終わりは必ずやってくる。
終わることを恐れ、哀しんでいる自分。

・・・滑稽だと気がついたのは、この祭りの意味を思い出してのこと。
誕生を祝っているはずなのに、どうして終わりを考えているのだろうか、と。
始まりを意味する祭りで終焉を意識するのはナンセンスだ。







「さぁ、グランドフィナーレですよ。・・・シンビオス様?」
隣のダンタレスに声をかけられて、飛びかけた意識が戻る。
「スピーチ、緊張なさっているのですか?それならばメモをお持ちになられては・・・。」
「いや、いい。」
事前に考えていたことをメモしてあった用紙をポケットから取り出すとその場でビリビリ破いた。
「あ・・・」
困惑の表情を浮かべたダンタレスに向かって、安心させるように言った。
「このメモに書いたことよりも、ウンと言いたいことを思いついたから。」
「・・・そうですか。」

その時、フィナーレを進行させていた司会者から呼ばれた。
自分がスピーチして、いよいよこの祭りも終焉を迎える。

この祭りは、もう終わり。







戦争が終わって1年。
失ったものは多くて。愛しい人や愛しいモノ達は取り戻せない。やり直したくてもやり直せない。

だけど。

ここから得たものもきっと多いはず。互いが互いの情熱を分け与え、見事な祭りに仕上げた。
終わりではなく始まり。
新しい瞬間を迎える始まりの為の祭り。

きっかけを与えてくれた神に感謝して欲しい。
頑張った自分自身を自慢して欲しい。
今、こうして生きて、何かを作り上げたことを誇って欲しい。
そうして、新しく始まるこの瞬間を一生記憶に留めておいて欲しい。







聖誕祭。
それは、新たな始まりを与えてくれる祭りで、人々の希望の証の祭りでもある。







――そして私にとっては、終わることが寂しいことではないことと、気づかせてくれたんだ――















<覚え書き>
エルベセム神の誕生日を勝手に捏造。そして何が一番言いたかったのかわかっていない。
2002年12月23日作成