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   キセキな出会い
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5.

目の前の未知な生物に心を奪われていたシンビオスだが、ダンタレスの腰元にぶら下げられていた時計が視界に入って慌てて時間を問い合わした。シンビオス同様、現実から意識が飛びかけていたダンタレスは身に付けていた時計を手にとり、こちらも慌てて確認した。
「あ、えーっとですね・・・会見までに、1時間半、切ってます!もうあと少しで2人との約束の時間です!」
「あちゃ〜それはまずいな・・・時間決めておいて遅れたら洒落になんないな。」
「そろそろ出ますか?ここに入って少なからぬ時間が経過していますし。」
時計と睨めっこしながらダンタレスが提案する。
「うーん、そうだね。そろそろ出なきゃ。」
「クエッ!?」
事態を察したたまごがシンビオスの膝の上でもぞもぞ動いた。
「ごめんね、たまご君、僕達これからまだ大切な用事があったんだ。僕達、もう行くね?」
シンビオスはたまごを両手で挟んであやすかのように優しく言った。
「クピッ!?クピーンッ!!キュー・・・。」
たまごはそれはそれは悲しそうな声をあげた。
「ああ、そんなに悲しまないで。行きづらいじゃないか?」
相変わらずシンビオスは小さな子の相手をするように優しく諭す。けれども相手をしっかりみて真剣に。
「クピー・・・。」
「僕達はこれからすごく重要な話し合いに行くんだ。何人もの人たちの大切な生活がかかっているんだ。だから僕達は決して遅れるわけにはいかないんだ。わかってくれるよね?」
「クケッ。」
たまごは返事をしたようであった。
「さあ、笑って見送っておくれよ・・・って表情はわかんないか・・・とにかく、ね!?」
「クピーン。」
たまごはまた返事をしたようだ。しかしどことなく元気のない返事だった。
「きっとまたどこかで会えるさ・・・いや、僕ね、何となくだけど近いうちに僕達また会えるような気がするんだ。」
「クピピピピピッ!?」
「うん、絶対会えるさ。ふふ、僕の予感って結構当たるんだよ。」
もはやシンビオスの予感は確信に変わっていた。
「シ、シンビオス様・・・。」
ダンタレスはシンビオスの根拠無き宣言にまたもや困惑している。
「クピッピクピプ!」
「うん、それまで元気でね!」
シンビオスはそれまで膝の上に抱いていたたまごをそおっと降ろすと(正確には置くと)立ち上がった。
「クピ〜!!」
たまごは再び元気に跳ね始めた。
「さあ、ダンタレス、行こう。」
「はい。じゃあな。」
ダンタレスもまたたまごを一撫でするとシンビオスの後に続いた。シンビオスは最後に入り口でもう一度振り返ってたまごに手を振った。

バタンッ







2人がいなくなった後で、たまごはある重大な決意をした。
一生に一度の大冒険を・・・って、あんたまだ生まれてないだろう!

「クピップクケケクピーン!!」







民家をあとにした二人は急ぎ足ですでに住宅街を通り抜けていた。
「あの、シンビオス様。」
ダンタレスがやや遠慮がちに尋ねる。
「なんだい?」
後頭部をさすりながら返事をする。どうやらそこにはっきりとコブが出来始めたらしい。
「あの、さっきたまごに言っていたことなのですが・・・。」
「ああ、それなら・・・。」
一旦言葉を切って考えると、シンビオスは再び話し始めた。
「確かに・・・この後のことを考えて大袈裟に言ってしまったかもって、そう取られても仕方がないけどね。でも・・・どうしても僕にはこれでさよならって、思いたくもないし、思えないんだ。あれは僕の願いだし、本心だし、確信だよ。根拠なんてないよ。でもこれだけは譲れないし、なんとなく自信がある。」
「そうですね・・・逢えるといいですね。いえ、逢えますね。」
「ああ。」
―これから、どんなことが起こるか全くわからないけど、今は・・・君に出逢えたこの奇跡を神に感謝しよう―

シンビオスはそう心の中で祈りを捧げた。







この後、あのたまごと再会するまでもうしばらくの時間を必要とすることを、2人はまだ知らない。







2人は急いで寄宿舎前に向かい、なんとか約束の時間ギリギリについた。
すでにマスキュリンとグレイスはそこにいた。
「時間にうるさいダンタレス様がギリギリだなんて、これからは大きなこと言えないわよね。」
「うるさいな、お前が遅れなかったのはグレイスが一緒だったからだろうが!」
会った瞬間にダンタレスとマスキュリンの言い合いがまたもや勃発した。
「もう、2人とも・・・。」
そういうシンビオスも今は本気で言い合いをとめようとしなかった。
「あら、シンビオス様・・・何かいいことでもあったのですか?」
グレイスがシンビオスの様子を窺ってそっと聞く。
「うーん、そうだね。でもどうして?」
「いえ、なんとなく・・・とてもいい表情をなさっていたのでつい。」
「そんなにいいかなあ・・・。」
そういいつつも、否定はしなかった。実際いいことがあったのだから。
『ま、ちょっと痛かったけど、ね。』
そうして4人は西地区へと向かったのであった。







西地区の扉をくぐるや否や、帝国兵にからまれ、そこに帝国第3王子メディオンが現れ・・・
共闘したのもつかの間・・・

そして、時はシンビオス達の意思と関係なく一気に加速していくことになるのであった。



荷物置き場の爆発が、そのファンファーレだった。

奇跡な出会い 完


Before      Library






<覚え書き>
ホントはシンビオス軍に加入して、戦いに赴いて、光の戦後まで書こうと思いましたが

1.いつ終わるかわからない
2.読者の立場で考えると長編は読むのがダルい
3.そんなにしょっちゅうはUpできそうにない
4.本編自体の記憶が曖昧なのでもう一回設定資料集でも読んで勉強し直したほうがよい
5.根性が尽きた

・・・5のウエイトが97%以上です。
2000年11月6日完結