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   キセキな出会い
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4.

完全にその空間の時間は止まっていた。
「へ?」
「あ?」
再び静寂、4.2秒。
「キュイン。」
それの発する声によって静寂は破られる。
「な・・・なんだ・・・これ・・・??」
「た・・・たま・・・ご、です・・・よね?」
「クケッ!」
まるで返事をするかのようにたまご(らしきもの)は鳴く。そう、ダンタレスの言うとおり、それは紛れもなくたまごの形をしていた。ただし、世間一般で形容されるたまごとは明らかに違った。
普通、たまごというのはニワトリ、或いはそれに類似した鳥が産み、大きさは大抵のものは手のひらに収まるぐらいで多くは色は白や茶色がかった赤色などだ。しかしそこにあるたまごは、形を除いたとしても・・・普通のたまごとはとてもじゃないが言い難いものだった。
まず、身体、もとい、殻の(?)の色が明るいオレンジに目の覚めるような白のしましま模様。大きさは大人が腕で抱えなければいけない位大きいシロモノ。そして決定的に違うのは明らかに自分の意志で動いている。おまけに鳴いている。
「お・・・大きい・・・ねぇ・・・?」
「珍しい模様です・・・ねえ・・・。」
「動いて・・・いるよねえ・・・。」
「鳴き声も・・・しますね・・・。」
ようやく気づいた疑問点を2人は代わる代わる言った。
「クケ、クピピピ!?」
たまごは思い出したように鳴いた。
「え?あ、ああ、大丈夫だよ、平気平気。」
シンビオスはたまごに向かって声をかけた。
「シ、シンビオス様!?」
シンビオスの、たまごに向かってかけた言葉にダンタレスは面食らった。言葉の内容ではなく、その行為に、である。
「あ、いや、その・・・『ねえ、大丈夫!?』って聞かれて返事したんだけど・・・?」
「こ、これの言っていることがわかるのですか!?」
「いや、なんとなくーなんだけど、そういっているような。」
「は・・・。」
ダンタレスは固まってしまったようである。
「クピッピ?くぴぴぴ!?」
「あ、ああ、本当だってば。」
と言ってたまごに向かって微笑みかけるシンビオス。
「クッピプピ〜vv」
「どわっ!!」
たまごはまたもや(今度は座っている)シンビオスに向かってダイブした。

ゴチッ

そしてお約束どおり、後頭部は床にヒットした。
「あいたっ!!」
「シ、シンビオス様!!」
「う〜、コブ、2個に変更〜。」
「クピッ!?クププ〜!!」
「あたたた・・・さすがに今度はちょっとこたえたかなあ・・・。」
たまごを片方の腕で抱えながら、もう片方の腕で頭をさする。
「キュイーン・・・。」
「おい、たまご!シンビオス様になんてことを!!」
ダンタレスは思わず声をあげる。
「ヒキーン!!」
たまごの方もダンタレスの怒り声にびっくりしたのか悲鳴をあげる。
「あ・・・頭に響く・・・ま、まあ、ダンタレス、悪気があるわけじゃないんだしさ。」
「それはわかってるんですが・・・つい。」
「キューン・・・。」
「あーあ、お前が泣いてどうするんだ。大丈夫だよ、ねっ?」
泣きたいのは本当はこっちなんだけど・・・という思いが一瞬頭をかすめたが、たまごの心底悲しそうで申し訳のなさそうな声に、頭の痛さは二の次になっていた。
「クピクピクピクピクピク。」
「うんうん、そうだったんだ、ありがとう。」
「あの・・・なんていっているのですか?」
全くわけのわかっていないダンタレスは思いっきりハテナマークを頭の上に飛ばしていた。
「今まで誰も自分の言葉をわかってくれる人がいなくて寂しかったんだってさ。それでわかってくれそうな人・・・つまり僕のことらしいんだけど、出会えて嬉しくてとびついたつもりなんだって。」
「はあ・・・そうですか。」
「クッピッピ、クプッププー。」
「嬉しさ余って抱きつくつもりだったけど自分がまだ殻の中ってことを忘れていて、結果的には体当たりになっちゃったんだって。まあ、こいつを受け止めれなかった僕がヤワかっただけかもね。」
「シンビオス様・・・完全にたまごの言っていることを翻訳なさってますねー。」
「え、あ・・・いや、その・・・そう言っているかな・・・なんて。」
「はあ・・・すごいですねぇ。」
ようやくダンタレスは素直に感心したようである。
「ところでさっき、殻の中がどうとかっていってたよね、ってことは、君の本来の姿がこの中に・・・っていうのもなんだかおかしい気もするけれど、つまりまだ生まれてないんだね?」
「クケッ。」
「ふーん、そうなんだ。」
シンビオスは頷く。
「しかし・・・殻ですよね、一応。どうしてこんなに柔らかいんでしょう?」
たまごの表面を撫でたダンタレスが疑問を口にしていう。たまごはシンビオスの膝の上でくすぐったそうに身じろぎをする。
「うん、そうなんだ、この感触がなんとも不思議でねぇ・・・。」
妙音の正体はこの弾力のある殻のせいだったのである。
「なあ、君は一体何処から来たの?・・・あっ!!」
もっともらしい質問をしたと同時にシンビオスは重大なことに気づいた。
「ダンタレス!今何時!?」


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2000年11月3日 完成