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2.

すでにマスキュリンとグレイスの姿は見えない。いつまでもぐずぐずしてもいられない、と、シンビオスとダンタレスの 二人も寄宿舎前を出発した。
中央からの通り抜けは禁止されているので東地区住宅街を通る。途中で住民に早速聞き込みを開始しているマスキュリンとグレイスの姿が遠目から窺えた。二人は自然に歩を速める。まもなく商業区へのゲートに着き、そちらへ出た。

予想以上に商業区は賑わっている。住宅街の方は人もまばらでひっそりとしていたのだが。
その辺にいる人間を捕まえていちいち話を聞いてまわるのは効率が良くない。とりあえず外での聞き込みは後回しにして建物の中に入ってみようということになった。

手近に建っていた武器屋・道具屋、ついで教会、貿易センター、更に酒場の順にまわった。売買が制限されている武器屋・道具屋を除いてはどこも賑わっていた。

予想していた以上にいろんな話が聞けたようだ。効率よくまわったおかげで時間は余っている。
商業区にも若干民家が存在しているので、シンビオス達はそれらにも訪れてみようということになった。







まず、酒場近くの民家に訪れてみる。ノックをし、家の中に向かって呼んでみるが応答がない。鍵も掛かっているようなので無人のようだ。長居は無用と、二人はすぐさま丁度桟橋を挟んで対象の位置にある民家へと足を向ける。同じくノックをし、中にいるであろう住人に向かって呼びかけてみる。
「こんにちはー。」
「どなたかいらっしゃいませんか!」
しかし返事は返ってこない。もう一度呼びかけてみる。反応はない。更に呼びかけてみる。しかし結果は同じだった。
「ここも誰もいないか・・・。」
「仕方ありませんね。残りの時間は通行人への聞き込みにいたしましょうか?」
「そうだな。」
二人が家の前から立ち去ろうとしたとき、ドアの立て付けが悪かったのか、偶然にもその家の扉が開いた。
「あれ?鍵がかかっていないようだね。」
「無用心ですね。」
と、言いながらダンタレスは扉を閉めようとした。するとダンタレスの耳に何かがかすかに聞こえた。
「??」
「どうしたの?」
「いえっ・・・聞き違いだとは思うのですが・・・。」
「何を?」
「いえ、その、家の中から何か聞こえたので。」
「窓が開いていたとして、風で何かが鳴っているのかも知れないな。」
「ええ、そうかもしれませんね・・・え?」
「うん?」
ダンタレスは再び閉じかけた扉を静止させた。
「まだ何か聞こえるのかい?」
「いえ、そうではありません。音は同じなのですが・・・ただ・・・。」
「ただ?」
「ただ、同じ音が遠ざかったり、近づいたり・・・というよりも行ったり来たりしているのです。」
ケンタウロス族の聴覚は人間のそれよりもはるかに優れている。だからシンビオスはダンタレスの言うことに疑いを持たなかった。
「どんな音?」
「うーん・・・その、トーントーンって足音のようにもとれるんですが・・・いや、トーンというよりはポーンというか。」
「じゃあ誰かいるんじゃないか?」
「いいえ、人が歩いているような感じじゃあないんです。もっとこう、感覚がゆったりと空いていて、跳ねているような感じですね。いかがされますか?」
「誰かがいる、或いは何かがいるっていうことは間違いないないだろう。それが人であれ誰であれ。けれどひょっとしたら空巣かもしれない。」
「その可能性は少なからずもあるでしょうな。」
「特にここは通りから死角だ。勝手に入るのはいけないことだけど、みすみす防げる犯罪をほおって置きたくない。とりあえず中に入ってみたい。」
「やむを得ませんね。入ってみましょう。」
シンビオスとダンタレスの二人は意を決してその家への侵入を開始した。




かくして、記憶と未知への扉は開かれた。


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<覚え書き>
不法侵入罪で捕まるぞ・・・と言いたいところですが、そういうと大半のRPGの世界は犯罪だらけで成り立たなくなってしまいます。
2000年10月7日完成